vol.1 失恋・そして男と女とソファーの微妙な関係


  ソファーを買った。
  大きな買い物だ。

  2月のとある夕暮れ、たまたま立ち寄ったインテリアショップで、そのソファーと出会ったのだ。
  体を優しく包み込んでくれる素敵な一人掛けのソファーだ。
  ケチな私が、なぜそんな大きな買い物をしてしまったのか?
  それは最近失恋したのである。

  私は失恋すると大きな出費をする癖がある。
  離婚したときは、腕時計を自分へプレゼントした。
  「離婚記念品」として今でも愛用している。
  引っ越しをしたこともある。一時期「オトコが変わると家を変える女」と言われたこともある。
  そして、今回はソファーだ。

  何故そんな行動に出るのか?
  たかが失恋なんかで、泣いていられないような大きなリスクと楽しみを自分に与えるのだ。
  「おいおい、こんな大きな出費なんかしちゃっていいの?大丈夫なのか?今後の生活は?」という
  リスクと「家に帰ればあのソファーが私を待っている。」という楽しみを与えることによって、
  失恋の痛手に浸っていられないような状況にしてしまうのだ。

  38年も生きると、「失恋」をすると、そこから立ち直るまでの心の変化が解るようになってくる。
  今はこんなに落ち込んで涙を流しているが、あと1ヶ月もすればこれを『笑い話のネタ』にして
  ご無沙汰していた友達を飲みに誘ったりして、やたらと積極的に外出するようになり、
  そうこうしている内に新しい恋の始まりを予感するようになる。

  そうなのだ。大体こんな感じなのだ。もうパターンは解っている。解っているのだから、
  失恋したからといって悲しむ必要はない、というか無駄。悲しむだけ損。眉間にシワがよるは、
  寝不足になってクマは出来るは、肌は荒れるは・・・。
  肌の回復力はそうでなくても年々衰えを見せているのだ。
  「失恋」ごときでそれに追い討ちをかけてはならない。

  「失恋」が何故涙を流させるのか?この悲しみの原因はナンなのか?
  これは50%は「くやしさ」なのではないかと思う。
  「この私がフラれた」というプライドを傷つけられた「くやしさ」。
  のこりの50%は、一人になってしまった「虚しさ」。
  頼る人がいなくなった、守る人がいなくなった「虚しさ」。
  「くやしさ」と「虚しさ」。この二つの感情だけなのだ。そう、たかがこれだけのこと。
  早いとこ、この二つの感情とはおさらばして、女性ホルモンを取り戻して肌をつやつやさせよう。

  ところで、私が失恋してソファーを買ったことを同僚の男性に話をしたところ、
  まず、もともと部屋にソファーがなかったことがフラれた原因のひとつだ、と指摘した。
  そして、「一人掛けのソファーなんか買うな、二人掛けにしろ」というのだ。

  男と言うのは彼女の部屋に行ったときどのようにして「ラブラブな状況」を作ろうかと
  頭の中で一生懸命考えを巡らすのだそうだ。
  二人掛けのソファーというのは、二人並んで座ると体が密着してそういう状況に持って
  行きやすいから男としては助かるのだそうだ。

  いままで、彼が家に来てもキッチンの椅子に座らせ、私はテーブルを
  挟んで真向かいに座る。そのような状況が作りにくい環境にあったといえる。
  その上、ベッドではなく畳の部屋に布団を敷いていたから、彼が来るときはご丁寧に
  布団は押入れにしまっていた。ますますダメだ。

  ソファーを二人掛けに取り替えろ!そうでないとまたフラれるぞ!・・・と同僚に脅されたが、
  この狭い部屋に二人掛けのソファーなんて置けるわけないだろ!

  あ〜また結婚が遠のいていく気がする・・・と思いつつ、このソファー、結構快適である。